「スカイ・クロラ」制作記録

■ 映画の半分は音で出来ている

「映画の半分は、音で出来ている──」

 押井監督が、映画制作における音響の重要性について語るときに、必ず口にする言葉だ。想像して頂きたい。......

■ 映画のクオリティを、2倍、3倍に引き上げる方法論

 押井監督は、作品のクオリティコントロールは勿論、スケジュールや現場管理においても、優れた陣頭力を発揮する監督である。常にその指揮の背景には、自らを戦時下の作戦参謀に例える監督らしい、緻密な戦略と理論的裏付けが存在している。「スカイ・クロラ」の作画・背景・仕上(キャラクターへの着彩)の作業が終盤に近づきつつあった時、押井はこう発言していた。......

■ 新たなアニメーション表現への挑戦

「スカイ・クロラ」のもうひとりの主役、それは3DCGIである。「スカイ・クロラ」は、押井守監督作品の中でも、最も多くの単独の3DCGシーンが投入された作品だった。......
 

■ 手描きで照明・レンズ効果を描き分ける

 作画によって表現されるキャラクターが、ドラマを演じる役者だとすれば、背景美術は、映画の「世界」そのものである。想像してみて欲しい。画面にキャラクターだけが存在し、背景が真っ白だったら、映画の中に世界は存在し得ない。......

■ 2Dセルアニメーションは頭を2段に分けて理解する

 少々乱暴な解説だが、筆者は、2Dのセルアニメーション(所謂日本のアニメ)の画面構造を理解して貰う為に、「頭の中を、2段に分けて欲しい」と説明するようにしている。1段目は、絵の具(ポスターカラー)で描かれた背景美術。......

■ 「スカイ・クロラ」で目指した演出

 そして今回、「スカイ・クロラ」において押井は、画コンテに新たな演出的野心を盛り込んでいた。
それは、キャラクターに無意識の芝居をさせる事であった。アニメーションとは、キャラクターの動き=演技を、全て(意識的に)手で描く芸術である。......

■ 独りきりの画コンテ執筆

 2週間に渡るロケハンより帰国してすぐ、押井監督は熱海の自宅へこもり、約半月間をかけて、画コンテの執筆に入った。......

■ アニメーションにおけるロケハンの意義

 2006年9月10日、「スカイ・クロラ」のメインスタッフは、押井が映画の舞台に据えた、アイルランド・ポーランドへと出発した。......

■ あのビルにミサイルが......

 少々不謹慎なハナシだが、押井監督と街を歩いていると、突然立ち止まって、ボーッとあるところを眺めている事に気づくことがある。時に、移動中のJR中央線の車内だったり、新宿の高層ビルだったり。......

■ 巨人の国のキルドレたち

 「スカイ・クロラ」の主人公キルドレたちは、思春期の姿のまま、それ以上年をとらないという特徴を持っている。見た目はティーンエイジャーだが、中身は大人。押井は企画当時、こう発言していた。......

■ おかっぱ!

 「ダメ! おかっぱで行くからね。こればっかりは絶対にゆずれないよ!」

 「スカイ・クロラ」のシナリオが2稿を重ねた2006年5月の事である。制作現場の隅にしつらえた打ち合わせ用の会議テーブルで、押井守監督と、キャラクターデザイナー・作画監督の西尾鉄也が差し向かっている。勿論テーマは、映画のヒロイン・草薙水素の髪型についてである。......

■ コタツから物語が生まれる

 六畳一間の和室の中央に据えられたコタツに、菓子とお茶が並べられ、雑魚寝形式のシナリオ会議が始まった。押井はこのシナリオ打ち合わせを「こもり」と呼ぶ。会議室で、肩肘張って物語を紡ごうとしても、良い作品は絶対に生まれない。文字通り、お互いがお互いの腹をさらし合って、ひたすら作品をより高みへと押し上げる為の議論に多くの時間を費やす。押井はこう言う。......

 映画制作の初期段階において、押井守監督が最も時間をかけて進めるテーマの提示と、世界観・映像表現の一致。半年間に及ぶ企画検討期間を経て押井は、作品を通して伝えたいテーマと、それに即した映像表現のイメージを言葉にしながらスタッフ編成を固め、製作委員会の招集にも積極的に関与していった。......

■ 「スカイ・クロラ」の縦構造

 前回、「僕は、若い人たちに伝えたいことがある」で述べたように、押井監督は、大人にならない子供たち《キルドレ》と、現代を生きる若者たちを重ね合わせ、その気分を丸ごと描くことを、本作のテーマに据えた。......

■ 世界が存在しなければ映画ではない

 押井守監督が、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー・ファイナルカット」の公開時に寄せた一文に、こんな一説がある。......

 ※5月9日にアップしました「スカイ・クロラ制作記録」、全文が掲載されておりませんでした。申し訳ありませんでした。本日、全文をアップいたします。
 第2回は、明日10日(火)にアップの予定です。

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 押井守監督作品「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」の、企画から制作、完成までの記憶をたどる「スカイ・クロラ制作記録」。前回は、「前口上」と題して、押井監督が信条とする、歴史に残る映画の条件「テーマと映像・世界観の一致」に触れた。

 第1回は、映画「スカイ・クロラ」のテーマについて書いてみたい。押井監督が、森博嗣氏の著した原作を映画化するにあたって、企画段階に掲げたテーマ=「今、若い人たちに伝えたいこと」とは何だったのか。

「スカイ・クロラ」制作記録 前口上

kiroku_1.jpg2008年4月19日(土)、押井守監督最新作「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」(以下、「スカイ・クロラ」)が、完成初号をむかえた。2006年11月9日(木)の作画イン(アニメーターが監督と打ち合わせを行い、紙の上に鉛筆でキャラクターを描き出すこと)より1年半。映画制作という長い長い旅に、ひとつの、大きな読点が打たれた。